数日前にも、中国の一部の乳製品に「皮革製品」を製造する過程で出た皮革の廃棄物を溶解しそれからタンパク質を抽出し、乳幼児向けのミルクに混入し蛋白質の比率を偽装して販売している会社があるという報道があったばかりだ。
2月14日、中国の経済誌「新世紀」に「镉米杀机」という特集記事が組まれた。
日本語に直訳すると「カドミウム米の殺意」となるだろうか。
「新世紀」を発刊している「財新網」のサイトでも「カドミウム米」に関する追跡報道サイトが組まれている。
そこに、「中国の米の10%がカドミウムに汚染されている」という根拠になった報告書が掲載されているので、合わせて紹介し、中国のカドミウム米問題のポイントについてまとめておく。
1)まず、「中国の米の約10%がカドミウムに汚染されている」という記事の根拠になっているのは、この調査研究が元になっている。
南京农业大学农业资源与生态环境研究所 2008年2月安全与环境学报に掲載された 「中国部分市售大米中 Cd、Zn、Se的含量及其食物安全评价」
(中国の一部市場の米のカドミウム、亜鉛、セレンの含有量及び食物安全評価)
同大学の潘根興先生の研究グループが2007年に行なった調査をまとめた報告書だ。
研究グループは、中国の6地区(華東、東北、華中、西南、華南及び華北)の県レベル以上の市場で購入した91の米(44種がうるち米、47種はもち米)を計測したところ、約10%の米のカドミウム値が中国の食品衛星基準を越えていたという結果が出た。
うるち米については、もち米よりもカドミウム、セレンの吸収率が高く、その90%に食用すると健康を損ねるリスクが高いという結果が出たそうだ。
2002年、中国農業省が米とその米製品について全国的な抜き取り検査を実施し、鉛含有量の基準値越えは28.4%、カドミウムに関しては10.3%が基準値を越えたという検査結果がある。
2)土壌の重金属汚染の実態がはっきりしない。
「財新網」サイトでは、米の重金属汚染が判明している地域の「不完全」分布図を掲載している。
中国大米污染不完全分布图
なぜ、不完全な分布図 かと言えば、中国政府による公式な全国調査結果が「発表されていない」ためだ。かなり皮肉な表現だ。
2005年に中国環境省と国土資源省が全国の土壌の重金属汚染調査を開始したそうだが、その数値はいまだに公表されていない。
8km四方を選んでは土壌調査をするらしいが、各地方政府の選定場所や「協力」姿勢によっても調査結果に影響がでるだろうと言われている。
また、元々2008年に出る予定だった調査結果はいまだに公表されていない。
公表される数値によっては、地方の工業生産・経済にも影響が出るため、具体的な地方や数値の発表ではなく「ぼやかした」発表になるのではないかという予測がでたりしている。
3)「痛痛病」(イタイイタイ病)と疑われる初期症状が出ている農民
だが、「新世紀」が今回取材した2つの地区(広西省、湖南省)の農村では、自分の農地でとれた米を食べている農民に「イタイイタイ病」(中国語:痛痛病)に似た初期症状が出始めている人々がいる。
現地の医者に見てもらっても「原因不明」ということにされ、放置されている状態だ。
農民は原因が分からないので、足腰に力が入らなくなり歩行が困難になることから「軟脚病」と呼んでいるらしい。
この2つの地域は、それぞれ亜鉛鉱山や工業地帯と隣接していて、そこから流れ出したカドミウムで河川が汚染され、その河川で稲作をした結果、米がカドミウムに汚染されたことが「疑われている」。カドミウム汚染米とこれら鉱山や工業地帯との関係が立証されていないので、あくまでも「疑い」があるということだが、河川の水質検査や土壌調査で基準以上のカドミウムが検出されていて、関連性は明らかだが、そのことを農民に伝えていないのでこれまで農民達は知らずに米を食べて来た。
農民の健康意識が高まり、「汚染米」をこっそり売って、その金で「きれいな米」を買っているらしい。その「汚染米」が市場に出回っているのだろう。
3)中国の公害病訴訟の難しさ。根底には中国の「法治の未成熟」と「隠蔽性」があるのでは。
最後に、中国政法大学環境資源法研究所 王灿山所長のインタビュービデオを見た。
王 所長は、1998年に政法大学環境汚染被害者法律支援センターを立ち上げ、全国的に公害病なで苦しむ人に法的な支援活動をしている。

王所長が「中国の環境訴訟の難しさ」について「財新網」の記者のインタビューを受けた。
ポイントは下の4点だ。
困難その一:証拠収集が難しい。
被害者側の立場に立って調査報告をする第三者機関がない。
現在ある行政主導の調査では、自分の地区にとって都合の悪い調査は引き受けてくれない。
困難その二:起訴が難しい。
原告の人数が余りにも多く、裁判所は問題解決が難しいと判断して起訴状の受理さえしない。
困難その三:審理に時間がかかる。
審理自体に何年もかかる。
困難その四:勝訴判決を勝ち取るのが難しい。
裁判所が審理して、確かに被告側企業に責任があると認定するも、その企業がすでに処分され閉鎖されていて存在せず責任を取る企業がない。またはその企業がその地区経済の主要産業を占めていて、原告勝訴判決を出すと地域経済に悪影響がでるとして証書判決を出さないなど。
その結果、どういうことが起きるか。
全ての環境問題、公害病に関して、全て「政府」へ責任の追求が行くことになる。
本来、「企業」側が責任取るべき問題が、全て「政府」が補償などの解決に乗り出すという不正常な状態となっている。
王所長は、まず裁判所は積極的に公害病訴訟を受理して審理することを訴えている。
もし受理も審理もしなければ、
社会的に公害病が注目されない → 環境保護意識や活動が重視されない → いつの間にか問題が覆い隠される(掩盖)
という悪循環に陥ると指摘している。
<はらてんはこう思った>
中国のカドミウム米問題の深刻さはその実態が分からないので、本当に怖いと思った。
早期に土壌の汚染調査結果が発表され、被害者救済、土壌改善、環境対策などを取る必要がある。だが、本当の調査結果が公表されるだろうか?
一連の記事を読み、インタビューを見て強く感じたのは、「三権分立」の重要性だ。
また、最近中国では「人権擁護派弁護士」(中国語では维权律师)が弁護士登録を抹消され活動できなくなっているということが頻発している。どうも弱者側に立って働く弁護士が少なくなっているというのを聞くので、それも気がかりなところだ。

